近年、AI技術は目覚ましい進歩を遂げ、さまざまなクラウドサービスにAI機能が実装されています。その一例が、HubSpotがベータ版として提供している「Copilot Breeze」です。このチャットボットUIを通じて指示を出すと、システムに登録された当事者や案件の情報を分析し、質問に答えてくれる機能です。
「このコンタクト(世良 英誉)とのミーティングの準備をして」とチャットで依頼すると、AIが該当の"箱"から情報を取り出し、必要事項を整理してくれる—そんな近未来的な案件管理システムが、すでにベータ版で提供されています。法律事務所の業務効率化の観点から見ると、「AIに相談してスケジュールや案件状況を即座に把握できる」という世界が、もうすぐ現実のものとなるかもしれません。
なお、このAI機能はまだベータ版であり、精度やUIに改善の余地があります。具体的な課題と将来的な可能性については、記事の最後で触れますので、ぜひ最後までお読みください。まずは、この次世代案件管理の基盤となるHubSpotの基本機能について、法律事務所での活用方法をご紹介していきます。
法律事務所で案件管理ツールを検討する際、多くの場合はExcelやNotion、または法律事務所向けの専用ツールが選ばれます。しかし、企業(特にB2B)で広く活用されているSalesforceやHubSpotなどの「CRM(顧客関係管理ツール)」も、法律事務所の案件管理に効果的に活用できます。
このような課題を抱える法律事務所にこそ、HubSpotのようなCRMが適しています。無料版からスタートできる手軽さと柔軟なカスタマイズ性により、初期コストを抑えながら事務所独自の運用に合わせた設定が可能です。それでは、具体的な活用方法を見ていきましょう。
まず、HubSpotには情報を管理するための"箱"が4つ存在します(システム内では「オブジェクト」と呼ばれます)。法律事務所での運用をイメージしやすいように、分かりやすく表記してみましょう。
日本語設定では一部不自然な訳語が使われていますが、法律事務所向けには「当事者(コンタクト)」「組織(会社)」「案件(取引)」「タスク」の4種類として捉えると分かりやすいでしょう。
💡ワンポイント💡
入力するように意識しましょう。
メールアドレスや電話番号などの“個人情報”は「コンタクト」へ、企業名や所在地などの“組織情報”は「会社」へ、案件の進捗や概要は「取引」へ格納する、といった具合で、情報が重複しないように整理します。
「どの情報をどの箱に入れるのか」を事前に事務所内でルール化しておくと良いでしょう。企業法務案件なら「取引先の会社=会社」「法務担当者=コンタクト」のように、民事事件なら「裁判所=会社」「依頼者・相手方=コンタクト」のように振り分けるとイメージしやすくなります。
HubSpotの強みは、「コンタクト」と「会社」など、箱同士を簡単に紐づけられる点です。
ExcelやNotionでは、一つの表に会社名・住所・担当者名・役職などを並べがちですが、これではデータが重複してしまいます。箱ごとに情報を分けて紐づけることで、情報の修正や更新が格段に簡単になります。
良い例:(この2つのテーブルを紐づけるイメージ)
会社名 | 住所 |
---|---|
株式会社ABC | 東京都港区 |
氏名 | 役職 |
---|---|
山田太郎 | 課長 |
悪い例:
会社名 | 住所 | 氏名 | 役職 |
---|---|---|---|
株式会社ABC | 東京都港区 | 山田太郎 | 課長 |
HubSpotの「取引(案件)」画面は大きく3つのエリアに分かれます。
ここでは、「取引(案件)」に紐づく基本的なプロパティが表示されます。
💡ポイント:かんばん形式にも対応💡
ステージはドラッグ&ドロップで変更できる“かんばん”形式にも対応しています。タスク管理ツールのように視覚的に進行度合いを把握できるので、複数案件を同時進行する際も進捗がひと目で分かります。
また、法律事務所では案件の種類によって必要となる項目が異なりがちです。
そんな時はパイプラインを切り替えることで、各案件の特性にあわせた独自項目を設定し、管理できます。
ここは、当該案件に関わるコンタクト・会社などの“箱”を紐づける場所です。
たとえば、当事者「山田太郎」には「原告」「相談者」などの“タイプ”を付与しておけば、関係性が一目瞭然です。裁判所や検察庁も“会社”オブジェクトとして登録し、各案件に紐づけるだけで、関係する機関や組織がすべて表示されます。
事件処理に関わるあらゆる書類をHubSpotにアップロードすることも可能ですが、容量の問題や検索性を考慮し、見積書や請求書など“お金周りのファイル”をHubSpotに保存し、その他の裁判資料などは別のクラウドストレージを使うなど、切り分ける方が運用しやすい場合もあります。
ここでは、案件に対するアクションを時系列で管理できます。
当事者とのコミュニケーションを一元管理できます。HubSpotとGmailを連携すると、「Eメール」タブに当事者との送受信メールが自動的に記録されます。また、HubSpotと携帯電話を連携すれば、「コール」タブで通話の日時や内容を管理できます。さらに、zoomphoneなどのクラウド電話サービスと連携すれば、通話内容そのものも記録に残せます。
それぞれの画面説明を踏まえ、4つの“箱”を紐づけることで得られるメリットを整理してみます。
「株式会社ABC」という会社の箱を開くと、
「コンタクト」の画面で「山田太郎さん」を確認すると:
「取引」の画面では、以下の情報が集約されています:
「タスク」は各"箱"から作成・参照が可能です:
冒頭でご紹介した、HubSpotのベータ版AI機能「Copilot Breeze」。たとえば
「このコンタクト(世良 英誉)とのミーティング準備をして」
とチャットで指示すれば、AIがヒモ付いた情報を参照し、必要事項をまとめて返してくれる“近未来感”あふれる機能です。将来的には、
などが進んで、「法律事務所の全案件や当事者、関連書類をAIが理解し、会話形式で瞬時に答えてくれる」世界観が実現する可能性があります。
案件管理システムに共通する課題として、「入力の手間」問題があります。Colipot BreezeのようなAI機能が音声データや通話記録などを自動的に解析し、コンタクトや取引情報を更新してくれるようになれば、入力作業の大幅な効率化が期待できるでしょう。既にHubSpotでは他サービス(Zoom Phone など)と連携して通話ログを残せるため、その延長で**「会話内容を自動でテキスト化・フィールド更新」といった機能が実装される可能性は十分にあります。
Colipot Breezeのチャットボット機能は、まだ日本語対応の精度が発展途上です。しかし、将来的に入力(1の機能)が正確かつ容易になることで、法律事務所の「全ての案件」や「関係者の情報」が正しく格納されていれば、AIがそれらを丸ごと理解した状態で自然言語による質問にスピーディーに応答してくれる世界観が実現するかもしれません。チャットUIでサクサク質問できるようになると、わざわざ「各箱をクリックして情報を探す」という操作が要らなくなるので、弁護士や事務スタッフの方々にとって格段に使いやすい環境**となるでしょう。
まさに「CRM×生成AI」がもたらす次世代の業務効率化の一端と言えるでしょう。現時点で精度に課題があっても、早期に触れておくことで将来のアップデートにスムーズに対応できる可能性が高まります。法律事務所での業務効率化を考えるうえでも、一度チェックしてみる価値があるでしょう。